也雲軒俳句塾

第17回鬼貫青春俳句大賞に瑞季さんの『愛憎紙一重』

若手俳人の発掘・登竜門として柿衞文庫の開館20周年を記念し、平成16年に設けられた「鬼貫青春俳句大賞」。第17回目をむかえる今年は1991年生まれから2005年生まれの方を対象に作品を募集し、このたび各賞が決定いたしました。

第17回目となる今年は全国各地から42作品のご応募があり、「ホトトギス」主宰の稲畑廣太郎氏、俳人の塩見恵介氏、詩人の山本純子氏、伊丹青年会議所専務理事の藤原久嗣氏、柿衞文庫館長の岡田 麗〔順不同〕ら5人の選考委員が選考にあたりました。そして、今年の大賞には瑞季さんの『愛憎紙一重』が選ばれました。そのほか優秀賞には松尾唯花さん、水野 文さん、10代の方を対象にした敢闘賞には細川依蕗さんの作品が選ばれました。

受賞者と作品は次のとおりです。

【大賞】

瑞季さん

『愛憎紙一重』

希死念慮溶けた飴湯の鬱金色

田植ふ祖父ストリートビューからも去る

遠近の比翼墓に降る桐の花

亡き姉の齢数える梅酒瓶

梅雨の闇薬量増えし帰路阻む

デストルドー抱いた形代入水せり

巌頭に立つ意地もなし滝仰ぐ

隣人の吐息に揺らぐ水中花

半夏生点火ボタンを押せなくて

顔知らぬ祖母の眼差し紙魚が食む

我を呼ぶ沼の黒髪布袋草

蛇に食はす程度の自尊心

明易し屑籠宛に綴る遺書

草かげろふ剃刀引く手に止まりけり

誘蛾灯一人逝くのは怖いから

斑猫や導かれ往く水子地蔵

絵草紙の予定調和や土用干し

気紛れに麦茶一服無縁墓

氷水殺意と七度の融点差

屍を輿に野辺這う蟻の列

脳髄が紅く結露すソーダ水

猛犬の声絶え久し八重葎

眠剤の覚めし薄暮の風涼し

山蛭の毒見うなじを贄にして

箱庭を崩せど同じ憎き郷

晦の溽暑に溶ける薄荷飴

魂迎へ湿気るマルボロ出窓にて

納戸より提琴が呼ぶ敗戦日

隠居家の静寂に饐える南瓜かな

墓守娘遠き帰燕に爪を噛む

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【優秀賞】

松尾唯花さん

『祈り』

待つことは祈りと同じ春の虹

春だねとあなたが言えばそうだろう

街閉じて透明になるさくらばな

あずさゆみ春の呼吸に絡まって

風薫る消毒液のやわらかさ

三つ編みをほどいて海は開かれる

川の字の左に伸びる夏の猫

西へゆく天道虫も連れてゆく

枇杷の種洗って飾りつける姉

アイライン夏の光に沿って引く

歩きかた覚えはじめの水芭蕉

夏の雨ならば告げ口するように

風鈴と途切れ途切れの音読と

舟ひとつ燃え残されて大夕焼

川明かり夏は秘密を破らせる

会いたいと返信したいけれど蝉

わたしたち生きるの下手で立葵

空蝉や禁じられたり禁じたり

天使でも悪魔でもあり夏の果て

街灯に少し遅れてきりぎりす

一ページめくれば秋になる絵本

野分待つサンドウィッチの三角形

友達のまま流れ星ふたつみつ

汚いも綺麗も同じオリオン座

林檎むく指の伸びたり縮んだり

銀紙に冬来てミルクチョコレート

初霜や水道管にあるピアス

陰影に泣く子のありてルミナリエ

息をする羽子板たまに歌う羽根

終バスや冬の向こうにあるひかり

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【優秀賞】

水野 文さん

『夏風邪』

目をつむり歩くと四月にぶつかった

窓際の席へ移りし春の空

うずくまるトイレの格子窓に蝶

図書館の窓にいちめん若葉雨

まるい石ばかり集めて夏休み

これもまだ夢のつづきかソーダ水

「否めない」が口癖でゼリーが好き

ハーフかと思う睫毛の涼しさや

めだかにも感情があると言い張る

足の甲まん中だけが日焼けして

わたしより足の長い子の夏服

親指の火傷を舐める五月闇

いちいちきゃぴきゃぴするなよレモン

鉱物図鑑かくしておいた冷蔵庫

夏風邪や知られたくないアカウント

蛇苺むしると少し怖くなる

一つずつほくろかぞえて夏座敷

あのヤモリたぶん私になついてる

祖父母みな八月へ吸い込まれゆく

家中のガラス戸閉めて夕立雨

しゃぶしゃぶと西瓜食らってぺっと吐く

夕焼雲やけに大きなキーホルダー

蝉しぐれ時間がうしろへ伸びてゆく

夏至の夜のラジオの声のかすれつつ

本棚のしなだれかかる熱帯夜

泣けそうで泣けない映画ひでり星

返信は線香花火の落ちてから

三日月に放り投げたよきみの爪

ひぐらしやながいながい一本道

ゆで卵つるりとむいて、ほら銀河

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【敢闘賞】

細川依蕗さん

『コロナの日々に』

三姉妹「密」となり祝うひな祭り

春霞特定できぬクラスター

休校の校舎に響く卒業歌

口覆う君振り向かず卒業す

「粛」という字に縛られ春迎う

休校の駅舎に影なく春の蝶

厄の春体温測りて入室す

マスクして畑打つ父よ赤き腕

菜の花とパスタを茹でて引き籠もる

英語だけフェイスシールド新学期

モニターの担任白髪わずか増す

マウスガードクローズアップテレワーク

梅雨終えて話すことあり志望校

梅雨空とコロナの闇の明ける待つ

過去となるまでの時間よ自粛の日

約束のマスク遅れて届く夏炉

在宅の学習終えて切るスマホ

暑さにも厄にも勝てず引き籠もる

もう来ない学校でプール入る日は

瞬く間過ぎる十代虹架かる

お互いの無口に慣れて衣替え

短冊にコロナ消えよと逆さ文字

つじつまの合わぬ寝落ちや初夏の午後

英数と過密になった時間割

胸中の蝉鳴き止まず焦り増す

アクリルの板ごしに見る夏祓

老いた人のみ声高く夏の街

終業のチャイム待ちかね取るマスク

消毒の手の静脈の蒼き初夏

前向いて歩くと決めて夏の雲


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