かきもりニュース

第18回鬼貫青春俳句大賞に川田美紀さんの『空とぶパラソル』

若手俳人の発掘・登竜門として柿衞文庫の開館20周年を記念し、平成16年に設けられた「鬼貫青春俳句大賞」。第18回目をむかえる今年は1992年生まれから2006年生まれの方を対象に作品を募集し、このたび各賞が決定いたしました。

第18回目となる今年は全国各地から31作品のご応募があり、「ホトトギス」主宰の稲畑廣太郎氏、俳人の塩見恵介氏、詩人の山本純子氏、伊丹青年会議所専務理事の藤原久嗣氏、柿衞文庫館長の岡田 麗〔順不同〕ら5人の選考委員が選考にあたりました。そして、今年の大賞には川田美紀さんの『空とぶパラソル』が選ばれました。そのほか優秀賞には小湊日暮さん、池西菜々子さん、10代の方を対象にした敢闘賞には栗栖深月さんの作品が選ばれました。

受賞者と作品は次のとおりです。

【大賞】

川田美紀さん

『空とぶパラソル』

しらうをはでんぱにのつてやつてくる

ここからは私の花野なんだから

道端のスプレー缶から春一番

春の渚に寝転がつてゐるひかり

エイプリルフール釦を掛け違ふ

フリガナの枠に収まる蜃気楼

春の昼らしく列車に乗り遅れ

本日は何もしない日燕の巣

花冷えをぼとぼとこぼしたるアンプ

葱の花いつもあなたは右に立つ

金魚玉ほどの愛でもいいですか

虹追つて虹に追はれてゐる車

遠雷やマネキンの脚かたづけて

早退の手は噴水に伸びてゆく

点字ブロックなんだかふぞろひなゆやけ

夕焼けは口を開けばそこにある

いつか空飛ぶパラソルになるだらう

やはり手を打てばいかづち落ちてくる

紙ストロー刺さる秋刺さらない秋

足跡のすこし流れる秋の水

りうせいのぎやうかんなんてよめるかよ

さかさむいても蟷螂といふべきか

掌に檸檬と書いてある散歩

どことなく握れば眠くなる芒

歯車にまた挟まつてゐる紅葉

このマフラー誰がほどいてくれますか

遠回りしてきたよクリスマスローズ

冷ややかに絵は唇を浮かばせて

手に取れば止まる時計や寒椿

マスクの中を考えてゐる時間

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【優秀賞】

小湊日暮さん

『東京』

天高し大道芸に五〇〇円

濠沿ひの秋思救急車のノイズ

内見の窓越しに立つ彼岸花

敬老の日やコロッケの二段積み

後の月あすは献血でもいくか

夜学子やリュックからブックポストへ

落日に猪追ふ警察官五人

暖簾から空風こげを待つもんじゃ

終電車ホームの蛍光灯寒し

二三本向こうの路地に石焼芋

手袋は軍手スクランブル交差点

底冷えのカップラーメンしょうゆ味

前かごに白菜ソバージュの蛇行

えび天を加ふ有馬記念の帰路

隣人の賀状の二枚紛れたる

ビル群の相映したる初御空

うららかや土鳩の人に交じりたる

霊園に蒲公英の茎しなやかに

少年へ監督の声春の川

春霖に耳慣れどまだ目の慣れず

草餅にむせて潤目に笑ひけり

椿落つ川の跡なる細き道

小銭手に小走り日和のさへずり

夏場所や駄菓子屋の奥座敷見ゆ

豚骨の臭気纏はる五月闇

甲子園の実況漏らす網戸かな

ぐるぐると蓮池二周して待てり

うなぎ釣る遠く団地とマンションと

小父さんの口笛乾き葦青し

夜の秋東京はもう帰る場所

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【優秀賞】

池西菜々子さん

『京都拾遺』

路地裏へ女ひとりの夕涼み

襟正し貴船の鱧を食べに行く

炎天の鉾の水引かがやけり

迎鐘引いて霊魂たぐり寄せ

消えてゆく川床の灯の影水の音

赤らんだ求肥の上の大文字

燃えたぎる掛け軸の中大文字

やや寒しおしぼり開く舞妓の手

いにしえの芒野ありて延暦寺

天高し宝ヶ池の昼の黙

鎖樋つたふ秋霖ねねの道

時雨つゝ祇園に人の息づかい

丸々と酢茎ら桶に横たわる

遠ざかる草履の歩幅散紅葉

熱燗や芸妓は袖を抑へつつ

凍星や転げさうなる狐坂

春著きて八坂詣のうらやまし

初売りの錦通りではぐれけり

大通りただよふ京の残り福

早春の池染め上げて金閣寺

小雨降る北野の道や梅香る

庭の土耕す翁嵯峨の春

春雨のはらりはらりと嵐山

落柿舎の垣根の先に山笑ふ

春夕べ煉瓦のチャペル開かれて

暮遅し並んで歩く賀茂の土手

若楓蔭踏んでゆく金福寺

丸太町ブックカフェーの風薫る

哲学の道匂ひたつ青嵐

五月雨やイノダコーヒー混みあって

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【敢闘賞】

栗栖深月さん

『男子校』

オムレツのひかりは春の象徴で

爪短し奥歯が海苔に愛さるる

担任の英語訛つてゐて木の芽

ゆきどけやまたも流行りに遅れたる

鷹鳩と化せば私が鷹となる

磯遊び地学オタクを連れて来ぬ

ひらがなはカタカナの姉さくらもち

蚊を打つや世界がひたすらに痒し

ありあまる夏を環状線が囲ふ

脱毛の末の肌荒れ夏みかん

夕立の街は脊髄だけの街

校庭が鳩の休み場花は葉に

図書室に軟禁されてゐる梅雨だ

「衝撃映像」「スタジオ号泣」茄子美味し

遅刻魔はけふも炎暑を顧みず

西瓜食ふ都会は猿一匹に怯え

秋雨を歩く人類とは未完

白亜紀を見た秋二十一世紀

クリスマスベイビーたちの誕生日

文化祭男子校とは伏魔殿

かけつこにがり勉の揃ふ一幕

専らの話題は鬼滅芋煮会

山眠る醤油は夜の色をして

くちばしのごときマスクをしてゐたる

「撫でたのは貴様か」と老兎(ろうと)の怒り

空を見る試験監督冬日和

ネクタイとベルトに縛られつつ雪

夜型の一家に生まれ除夜の鐘

先祖遂に大河ドラマに出る今年

春を待つただ春だけを待つてゐる


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